2008/11/10
テーブルの上に読みかけの婦人雑誌があった。何となくページをめくると、こんな記事が目に留まった。
「いまから夫を”いい男”に変える」
記事は「ファッション編」「キッチン編」「ベッド編」の三つに分かれていた。 QPは一体何を企んでいるのだろうか。今のままでいいのに。
「ファッション編」はスタイリッシュな大人の装いだそうだ。これは議論の余地がない。 私をいい男に変えられるわけがない。
「ベッド編」。 下品な表現は嫌いなので、論文で世間を騒がせた元空幕長の発言を借りることにする。
「そんなの関係ねぇ」
問題は「キッチン編」である。 「心に火をつけ家事の達人に…」と書いてある。 家事なんか大嫌いだ! 今までどおりQPがやればいい。
小さいときの夢は「お嫁さん」と言っていたじゃあないか。 願いが叶ったのだから、わき目を振らずに最後までやり遂げてほしい。
退職以来、好きなように暮らしてきた。 家にいても同様だ。 多少は我慢をしているところもあるが、これは税金みたいなもので楽しい暮らしの為の納得できる負担だ。
絶対服従の私だが、危機が迫ってくれば話は別である。
さっそく対策を練った。 ひらめいた格言は、
「攻撃は最大の防御なり」
不本意ながら攻撃を仕掛けることにした。 さもないと、楽しい生活は瞬く間に破壊される。 正当な理由など要らない。
いつもやられていることをやり返せばいいだけだ。
「あなたは都合のいいように私を変えてきましたね。婦人雑誌にやり方が書いてありましたよ。 この雑誌が証拠です!」
「何言ってんのよアンタ! 今でも家ではゴロゴロしているし、何も変わってないでしょ」
「最近ケンカをしないでしょう。 あなたが私を都合のいい男に変えたからです」
「そんなことないよ。退職して7年もなるのに、ご飯の支度一回もしてないでしょ」
なんだか旗色が悪くなってきた。 やはり慣れない事はしない方がいい。 QPの方がケンカ上手で攻撃のツボを心得ている。 悔しいけど負け戦かも知れない。
「ありますよ。厚別で…」と、最後の抵抗。
退職当時は札幌市郊外にある厚別の一戸建てに住んでいた。その頃のことだが…、
「ご飯の支度、交替でしない?」 突然の提案にビックリした。
家でゴロゴロして3か月たっていた。 仕事から解放されホッとしていたので、静かに幸せを味わっていたのである。
正直に言うと、「こんなことは予想もしなかった」と言えば嘘になる。 密かに対策を練っていたのだ。
私の危機管理は常に万全である。 あって欲しくないことに対しては準備に怠りない。 QPに対しては長年にわたり、内偵を続けて来たのだ。
こう出れば、ああ出る。分からないことなど何もない。 一方、QPは私のことなど何も知らない。 一方的に言いたい放題だから こうなるのだ。自業自得である。
机上で考えていたことを実戦に応用するときが来た。 かねて用意していた対応策をQPにぶっつけた。
「それは良い考えですね。2週間交替でやりましょう」
何も知らないQPはニッコリ笑って「お願いね」と言った。
「実は私からもお願いがあるのです」
「何でも教えて上げるから気楽に言ってちょうだい」
「教えてくれなくて結構です。 テレビでも観ながら ごゆるりとお待ちください。 一人で自由に作るのが好きですから」
「そぉ、好きなようにやってちょうだい」
「一生懸命作りますから、残さず食べてくださいね」
「もちろんよ〜。上げ膳据え膳なんだから」
善は急げだ。さっそく、夕飯の用意をした。 QPはテーブルを見たとたん…、
「何よこれ!」
「夕食です。 お行儀悪いですね。食べるときは『いただきます』と言ってください」
「豆腐、丸ごと出して、どうやって食べるのよ!」
「柔らかいから箸で食べられますよ。 ネギもありますよ。唐辛子をかけるとビリッとして美味しくなります」
「ネギ、丸ごとじゃない」
「そこに鋏がありますね。 必要な分だけ切って食べてください」
私は先のことを考え過ぎるのかも知れない。 料理を作っているときに、早くも後片付けのことを考えてしまう。
オカズを豆腐にしたのは食器が水洗いですむからだ。 ネギをを丸ごと出すのは まな板を汚さないため。
それに、必要な分だけ食べて残りはそのままとって置くこともできる。けだし名案ではないか。 材料と水とエネルギーの倹約にもなる。 今流に言えばエコである。
「エコなんですよ」
「エゴじゃない」
どうやら面倒くさいからやらないと勘繰っているらしい。 QPに理想を語っても無理かもしれない。

朝食の支度をしていると背後に人の気配を感じた。 振り向くとQPが立っていた。
「味噌汁作るところなんですよ。自由にやらせてください」
「それ、味噌汁の鍋じゃないよ」
「そんなことまで決められたら何もできません。分かりました! 何でも言うとおりにしますから言って下さい。 ご指示ください!」
こうなったら、「頭」の丸投げだ。 何もかも言う通りにする「手足」に徹することにした。
一応、怒ったようなフリをしているが、ここまでの展開は、私の描いたシナリオどおりである。
「じゃあ、味噌汁の鍋だして」
「どこにあるのですか?」
「そこよ。 ダシもいるでしょ」
「どこにあるのですか?」
こうして延々と「どこにある?」「どうするの?」が続くことになるのだ。QPは根気よく次から次へと指示を出した。
私は言われた通りのことだけをした。 30分もするとQPは音を上げることになった。 このゲームはやる前から勝敗は決まっているのだ。
いよいよ最終段階だ。 ここで手を抜いてはいけない。 最後の詰めである。
「あんた、ホントに役立たずね」
「でも、頑張ります」
「私の方が疲れちゃうよ」
「頑張って下さい。 まだ始まったばかりです。二人の幸せのためです。私も全力を尽くします!」
「もういいわ。私がやるから」
「それはいけません。 2週間交替と決めたばかりでしょ」
最後まで「やる気」を見せたが、食事当番は1食半でおしまいとなった。 QPがやりたいというものを、無理に止めることはできない。
波高し 巧みに操る夫婦舟
面舵いっぱい それっ!ヨーソロー
<登場人物>
nakapa 夫婦舟船長 何もせんから、せん長。
QP 夫婦舟機関長 言うこと聞かん、きかん長。
特別出演 元航空幕僚長 「勇猛果敢 支離滅裂」→
→ 憲法第9条?「そんなの関係ねぇ」
<参考1:>
2008年4月18日定例記者会見での当時の航空幕僚長発言。
航空自衛隊のイラクでの空輸活動をめぐり、活動の一部が憲法第9条第1項に違反するという判断を含んだ名古屋高等裁判所判決について、
「…大多数は『そんなの関係ねぇ』とういう状況だ…」
<参考2:「自衛隊 - 通信用語の基礎知識」より抜粋>
陸上自衛隊「用意周到 動脈硬化」
元々、GHQにより「旧日本陸軍を否定する」ところから組織作りが始まったため、あまり伝統というものが無い。
海上自衛隊「伝統墨守 唯我独尊」
陸自とは対照的に、旧日本海軍の人員を引き継いで発足した組織であり、旧軍の要素を今も色濃く残している。このため、伝統を重んじる気風が強い。
航空自衛隊「勇猛果敢 支離滅裂」
手本は米空軍であるため、自衛隊の中では最もアメリカナイズされている組織であり、「ジョーク」を許容する空気が流れている。
「いまから夫を”いい男”に変える」
記事は「ファッション編」「キッチン編」「ベッド編」の三つに分かれていた。 QPは一体何を企んでいるのだろうか。今のままでいいのに。
「ファッション編」はスタイリッシュな大人の装いだそうだ。これは議論の余地がない。 私をいい男に変えられるわけがない。
「ベッド編」。 下品な表現は嫌いなので、論文で世間を騒がせた元空幕長の発言を借りることにする。
「そんなの関係ねぇ」
問題は「キッチン編」である。 「心に火をつけ家事の達人に…」と書いてある。 家事なんか大嫌いだ! 今までどおりQPがやればいい。
小さいときの夢は「お嫁さん」と言っていたじゃあないか。 願いが叶ったのだから、わき目を振らずに最後までやり遂げてほしい。
退職以来、好きなように暮らしてきた。 家にいても同様だ。 多少は我慢をしているところもあるが、これは税金みたいなもので楽しい暮らしの為の納得できる負担だ。
絶対服従の私だが、危機が迫ってくれば話は別である。
さっそく対策を練った。 ひらめいた格言は、
「攻撃は最大の防御なり」
不本意ながら攻撃を仕掛けることにした。 さもないと、楽しい生活は瞬く間に破壊される。 正当な理由など要らない。
いつもやられていることをやり返せばいいだけだ。
「あなたは都合のいいように私を変えてきましたね。婦人雑誌にやり方が書いてありましたよ。 この雑誌が証拠です!」
「何言ってんのよアンタ! 今でも家ではゴロゴロしているし、何も変わってないでしょ」
「最近ケンカをしないでしょう。 あなたが私を都合のいい男に変えたからです」
「そんなことないよ。退職して7年もなるのに、ご飯の支度一回もしてないでしょ」
なんだか旗色が悪くなってきた。 やはり慣れない事はしない方がいい。 QPの方がケンカ上手で攻撃のツボを心得ている。 悔しいけど負け戦かも知れない。
「ありますよ。厚別で…」と、最後の抵抗。
退職当時は札幌市郊外にある厚別の一戸建てに住んでいた。その頃のことだが…、
「ご飯の支度、交替でしない?」 突然の提案にビックリした。
家でゴロゴロして3か月たっていた。 仕事から解放されホッとしていたので、静かに幸せを味わっていたのである。
正直に言うと、「こんなことは予想もしなかった」と言えば嘘になる。 密かに対策を練っていたのだ。
私の危機管理は常に万全である。 あって欲しくないことに対しては準備に怠りない。 QPに対しては長年にわたり、内偵を続けて来たのだ。
こう出れば、ああ出る。分からないことなど何もない。 一方、QPは私のことなど何も知らない。 一方的に言いたい放題だから こうなるのだ。自業自得である。
机上で考えていたことを実戦に応用するときが来た。 かねて用意していた対応策をQPにぶっつけた。
「それは良い考えですね。2週間交替でやりましょう」
何も知らないQPはニッコリ笑って「お願いね」と言った。
「実は私からもお願いがあるのです」
「何でも教えて上げるから気楽に言ってちょうだい」
「教えてくれなくて結構です。 テレビでも観ながら ごゆるりとお待ちください。 一人で自由に作るのが好きですから」
「そぉ、好きなようにやってちょうだい」
「一生懸命作りますから、残さず食べてくださいね」
「もちろんよ〜。上げ膳据え膳なんだから」
善は急げだ。さっそく、夕飯の用意をした。 QPはテーブルを見たとたん…、
「何よこれ!」
「夕食です。 お行儀悪いですね。食べるときは『いただきます』と言ってください」
「豆腐、丸ごと出して、どうやって食べるのよ!」
「柔らかいから箸で食べられますよ。 ネギもありますよ。唐辛子をかけるとビリッとして美味しくなります」
「ネギ、丸ごとじゃない」
「そこに鋏がありますね。 必要な分だけ切って食べてください」
私は先のことを考え過ぎるのかも知れない。 料理を作っているときに、早くも後片付けのことを考えてしまう。
オカズを豆腐にしたのは食器が水洗いですむからだ。 ネギをを丸ごと出すのは まな板を汚さないため。
それに、必要な分だけ食べて残りはそのままとって置くこともできる。けだし名案ではないか。 材料と水とエネルギーの倹約にもなる。 今流に言えばエコである。
「エコなんですよ」
「エゴじゃない」
どうやら面倒くさいからやらないと勘繰っているらしい。 QPに理想を語っても無理かもしれない。

朝食の支度をしていると背後に人の気配を感じた。 振り向くとQPが立っていた。
「味噌汁作るところなんですよ。自由にやらせてください」
「それ、味噌汁の鍋じゃないよ」
「そんなことまで決められたら何もできません。分かりました! 何でも言うとおりにしますから言って下さい。 ご指示ください!」
こうなったら、「頭」の丸投げだ。 何もかも言う通りにする「手足」に徹することにした。
一応、怒ったようなフリをしているが、ここまでの展開は、私の描いたシナリオどおりである。
「じゃあ、味噌汁の鍋だして」
「どこにあるのですか?」
「そこよ。 ダシもいるでしょ」
「どこにあるのですか?」
こうして延々と「どこにある?」「どうするの?」が続くことになるのだ。QPは根気よく次から次へと指示を出した。
私は言われた通りのことだけをした。 30分もするとQPは音を上げることになった。 このゲームはやる前から勝敗は決まっているのだ。
いよいよ最終段階だ。 ここで手を抜いてはいけない。 最後の詰めである。
「あんた、ホントに役立たずね」
「でも、頑張ります」
「私の方が疲れちゃうよ」
「頑張って下さい。 まだ始まったばかりです。二人の幸せのためです。私も全力を尽くします!」
「もういいわ。私がやるから」
「それはいけません。 2週間交替と決めたばかりでしょ」
最後まで「やる気」を見せたが、食事当番は1食半でおしまいとなった。 QPがやりたいというものを、無理に止めることはできない。
波高し 巧みに操る夫婦舟
面舵いっぱい それっ!ヨーソロー
<登場人物>
nakapa 夫婦舟船長 何もせんから、せん長。
QP 夫婦舟機関長 言うこと聞かん、きかん長。
特別出演 元航空幕僚長 「勇猛果敢 支離滅裂」→
→ 憲法第9条?「そんなの関係ねぇ」
<参考1:>
2008年4月18日定例記者会見での当時の航空幕僚長発言。
航空自衛隊のイラクでの空輸活動をめぐり、活動の一部が憲法第9条第1項に違反するという判断を含んだ名古屋高等裁判所判決について、
「…大多数は『そんなの関係ねぇ』とういう状況だ…」
<参考2:「自衛隊 - 通信用語の基礎知識」より抜粋>
陸上自衛隊「用意周到 動脈硬化」
元々、GHQにより「旧日本陸軍を否定する」ところから組織作りが始まったため、あまり伝統というものが無い。
海上自衛隊「伝統墨守 唯我独尊」
陸自とは対照的に、旧日本海軍の人員を引き継いで発足した組織であり、旧軍の要素を今も色濃く残している。このため、伝統を重んじる気風が強い。
航空自衛隊「勇猛果敢 支離滅裂」
手本は米空軍であるため、自衛隊の中では最もアメリカナイズされている組織であり、「ジョーク」を許容する空気が流れている。