〜謎を解き巨悪をたたく〜このページは 巨悪に挑む?(中)の続きです。
「謎を解いたら、巨悪をたたかなければなりません」
「へ〜ぇ。あんたにそんなことができるのかい?」
「ナメたら痛い目に遭いますよ」 A市B公園の仕事は長い間カモカモ組が仕切っていた。しかし、2年前の入札でオオセグロ組が落札し、公園管理を新たに任されることになった。
B公園百年の歴史の中で初めての、一般競争入札による管理者交代である。 このような背景の中で「鯉の全滅事件」が起こった。
交替したばかりのオオセグロ組みにとっては降って沸いたような災難だった。これからの仕事に大きく影響するので、なんとしても隠し通したい。
死骸が浮いて来たのは交替したばかりの4月だが、鯉の全滅は凍結した氷の下で起こったこと。 当時、公園管理をしていたカモカモ組に責任があるはずだ。オオセグロ組としてはこの点でも受け入れ難い出来事だった。
鯉の全滅は起こるべくして起こった。 工事を請け負ったカラス組は河川工事実施予定を、カモカモ組など関係者に通知した。
B池は、この川から適量の水が流入することにより、池の生態系を維持してきた。しかし、工事により川水の供給が極端に減り、池の中の酸素が欠乏した。 その結果、鯉が酸欠を起こし全滅したのである。
こんな事情だから、全滅事故当時の公園管理者であるカモカモ組も隠して置きたい。原因を作った河川工事のカラス組は、もちろん隠したい。
それだけではない。公園管理と河川工事の両方の監督官庁であるA市も隠したい。 こうした背景があって「鯉全滅事件」は隠蔽することで、関係者による意思統一がなされた。後はマスコミ対策だけである。
新聞の記事を丹念に読めば分かることだが、マスコミは報道のかなりの部分を官庁に依存している。 そうすることにより、取材費用を安く抑えることが出来る。
大新聞といっても経営は楽ではない。購読者、広告で収入を確保する一方、支出も抑えなければならない。これを無視したら会社は成り立たない。
新聞と官庁は、場合によっては対立することもあるが、基本的には相互依存関係にある。 官庁が特定の記事を抑えることはよくあることだと聞いている。
今まで謎と思っていたことも、分かってみれば当たり前のことばかりだった。 着任早々のC記者は積極的に取材を進めてきたが、ある日突然、豹変したことも事情が分かれば理解できる。
当初は言論の自由を貫き、敏速な報道を心がける新聞記者として積極的に行動した。 しかし、上からの圧力を受けて、挫折したようだ。
大きな新聞社に属していれば、沢山の読者に読んでもらうことが出来るし、生活も安定する。 この地位を棄てられる記者は滅多にいない。これがドラマと現実の違うところだ。
最初に、C記者が公園事務所、A市公園課を取材したときには、関係者の間で、既に隠蔽することが決まっていた。
だから、そんな事実はないと直ちに否定した。 普通だったら、大新聞の記者が取材に来たら、「調べてみます」くらい言うはずだ。
鯉の死骸を見た人がいないのは何故か? 一見、この疑問も残るような感じもする。 しかし、真相は見た者はいるが、少なかったということだ。 しかも、報道してくれる人が誰もいないのだから、見た人がいないと、同じことである。
マスコミに載らないことは無いに等しい。 個人がいくら声を大にしたところで、信じる人はほとんどいない。
私自身も、散歩のおばさんから「鯉が酸欠で全滅した」と聞いたときは、信じられなかった。 その後、数日間池を見回り、多くの人から「見ていない」という情報を得て、初めて信じたのである。普通の人は、こんなメンドウなことはしない。
目撃したおじさんは、こうも言っていた。「大きな鯉の死骸がゴロゴロ転がっていたので、ビックリしたが、こんなことは初めてなので写真を撮ろうと思った。家にカメラを取りに行き、戻ったら何もなかった。この間20分くらいだと思う」
トラックもゴミ収集車も来ていたと言う。この時期はまだ寒く散歩の人も少ない、20分程度では、偶然通りかかった人数も知れている。片付け作業に気付いたとしても、ほんの数人程度だろう。 作業員は関係者だから口が堅いと思う。
状況から推測すると、鯉の死骸や片付現場を見た人は、ほんの僅かに違いない。 全員が喋りまくったとしても、彼らの生の声が届く範囲は限られている。 しかも信じる人は少ない。 関係者が隠蔽できると判断したことも頷ける。
私は目撃者の3人と話したことになる。最初はおばさんから聞いた。そのときは鯉の全滅を信じなかった。 次は目撃者のおじさん。 記者に連絡しようとしたが、出来なかった。
3ヶ月たち、夏になってから謎解きのヒントを沢山くれた、あの親分に会ったのだ。 親分は誰にも話さないことを条件に、すべてを話してくれた。
話さないと約束したのだから、ここにすべてを書くことはできない。
「驚くべきこと」の主要部分は秘密のベールに隠されたままであることを許して欲しい。
その他にも友人を通して、あるデパートの店員が沢山の鯉の死骸を見たことを聞いた。その人を加えると、目撃者の内4人を突き止めたことになる。 もはや鯉が酸欠で全滅したことは疑う余地もない。
しかし、もう一つ謎は残っている。 放送中、新聞社から家に何回もかかって来た大変な電話とは何か? 確かに新聞社から電話はあったが、内容は分からない。 なぜかけて来たかも分からない。 こればかりは永遠の謎だ。
「ところで、巨悪ってなんだい?」
「公園課、公園事務所、工事業者、マスコミが結託して隠蔽していることです」
「ちょっと、大袈裟じゃないか」
「貴方はテレビでイラクとかアフガンとか遠くばかり見ているので、そう思うのです」
「それがどうした」
「遠くの高層ビルより、隣の3階建ての方が邪魔でしょう」
「そりゃそうだな」
「私にとっては身近な悪こそ、巨悪です」
「ほ〜ぉ。それでは一番近い俺は巨悪かい?」
「場合によってはね。巨悪をたたく。これが私の使命です」
「おい、ヤメロ! 手を上げて何するんだ」
「頭が痒いのです」
「毛も無いくせに、どこが痒い!」
バシッ!!--巨悪をたたく-- 完