2008年01月04日

カラオケは辛いよ

2008/1/4

「カラオケは辛いよ」
「このコート10年も着ているんだけど、15万もしたかと思うとなかなか棄てられないね」元お金持ちのAさん。
「ほう〜ぉ。これは素晴らしいですね」とコートを見ながら私。
「それは私のよ、たった5万」と元先生。

「僕のアノラック、ベトナム製で7,800円」
と言ったところでしゃれにもならない。15万のコートをハンガーから外して触ってみた。手触りが良くて気持いい。 手にとって見るとふわりと軽い。いい臭いがした。

「いつまでも触ってないで、さっさと、曲選んで、あんたが先よ。一番若いんだから」。そうなのだ。ここでは私が一番若い。こうして、月1回のカラオケは始まった。始まったら最後、3人で3時間休み無しの3交替。お喋りは騒音の中で残った二人が大声でする。終わった頃には、もうガラガラのへとへとだ。

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考えてみれば、私は歌を禁じられている身だ。酔っ払いの言うことだから理屈もへったくれもない。ただ「お前は歌うな」の繰り返しで禁止されてしまった。ことの起こりは、およそ25年前、場末のキャバレー風大型飲み屋。酔いがまわった頃、誰が言うでもなく交代で歌おうということになった。
 
私はカラオケなどやったことが無いので「嫌だ」といったら、お節介なのが出て来て「オレが一緒に歌ってあげる」とか言って、私をグイグイ舞台に引っ張り上げた。

ところが、舞台に上がってみると、気が変わり、どんな風に歌ったか覚えてはいないが、3番まで気持ちよく歌ってしまった。 これが後で問題を引き起こすとは夢にも思わなかった。

それから、およそ半年後、男3人で飲んでいたら、酔っ払った一人が突然絡んできた。
「お前はなぁ〜、下手なくせになぜ歌うんだ!」
「順番だから歌えと言うから、仕方なく…」
「お前はなっ!歌えと言われても歌ったらダメなんだ」

首を振るな、傾げるな、声震わせるな、腰くねらすな、気分出すな、その他もろもろ、よくもこんなに覚えていたものだ。酔っ払っているから、同じことをなんども繰り返えす。延々と何時間も続き、家に帰ったら午前2時を回っていた。絡んだ同僚はカラオケの名手で、下手な人間を許せなかったのかも知れない。

酔って自分を失って無意識に出てきた言葉が「お前は歌うな」だ。世の中でこれほど真実な叫びはない。以後、私は24年間人前で歌ったことがない。

彼は礼儀正しい、親切な人だ。転勤のときも最後まで面倒を見てくれた。別な土地で再会したときも、自宅に呼んで歓待してくれた。彼は自分の言ったことを覚えているだろうか。こればかりは永遠の謎。お互いに触れたことがないのである。

私の歌が彼の心を深く傷つけたことを知ってから歌うのを止めた。決して禁止されたからではない。ここまで書いたら、なぜ始めたかも説明の必要があると思うが、長くなるので参考記事紹介 → カラオケデビュー

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カラオケも終わって料金の精算となった。
「今日は土曜日だから、高いんだって。一人380円よ!もう土曜に来るのは止そうね」

30%割引、飲み物無料券、シニア割引等、ありとあらゆる割引を駆使しているので、安いときは150円のこともあった。 
ふと足元を見ると洒落た靴が目に入った。
「いい靴ですね」

「分かる?足を怪我したとき、姉が見舞いに100万くれたから、25万で買っちゃった」
「そうですか。 稼いでくれた足へのお礼ですね」
「違うわ。痛みに耐えた自分にご褒美よ!」
posted by nakapa at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記